おいしさをさぐる食品感性工学
<社団法人 農林水産技術情報協会 編・ 相良 泰行 監修>
誰でも毎日何かを食べる。 何も食べない日は特別な場合だけであろう。 おいしいものを食べると幸せな気持ちになる。 この「おいしい」とは何だろうかと追及している人たちがいる。 何かを食べたときの味の感じ方は人それぞれに違う。これは味覚であり、感性である。その感性を測定しようと研究をしている。 今までは人を集めて試しに食べてもらい何段階かの評価をしてもらうという「官能試験」に頼る以外に「おいしさ」を評価する方法はなかった。 このプロジェクトに多くの研究者が関わって、テレビ番組の「プロジェクトX」に採用されるような様々な努力がされている。 味覚の持つ要素、それは色、形、におい、歯触り、味、温度など様々だ。 これらと「おいしい」と感じる感性との関係を見いだして、分類して一般化することで多くの素晴らしい利益が得られると筆者達は考えている。 商品開発が容易になり、的を絞りやすくなる。 寿命の長い商品を開発しやすくなる。 高齢者や病人も味気ない食事で我慢せずに「おいしい食事」をすることができるようになる。
この本はプロジェクトに参加している研究者達が、自分の成果をまとめたもので、「おいしい」と感じることをあらゆる面から調査している。 味や匂いのセンサーを開発し食品を官能的に分析したり、食べるときの歯触りを調べ、心理学的な考察を与え、食品の開発にフィードバックしている。この研究の過程と、解析された結果が非常に面白く、わかりやすく解説されている。「おいしい感覚」とストレス耐性の関係などは新鮮だが納得のできる話題だろう。 報告書なので言葉遣いがやや難しくなってしまうが、内容の面白さがそれをカバーしており、慣れてしまえばなんでもない。柔らかい話を固い言葉でしていると思えば、それもまた面白い。
これからの日本は食べることについて、いままでよりももっと細分化された嗜好を追及していく時代になるであろう。若い人に向けて、年配の人に合わせて、病弱な人のために様々な「おいしさ」や新しい味を提供するためのステップになるであろう。この本を読むことで「おいしさ」に対する毎日の見方が変わってくる。また、人間の生活に密着した科学の報告書を読むことで知的刺激を受けるのも楽しさの一つではないだろうか。
<書評/松山 薫> |