骨董物語

その壱 「竜」
闇屋から買った乾隆帝の官窯


闇屋から買った乾隆帝の官窯


 歌舞伎の大見栄のようなポーズの睨み竜が描かれたこの皿も、やはり乾隆の官窯である。実はこの皿は滅多にない幸運によってもたらされた宝物なのだ。上海の骨董街を歩いているとき乞食のような風体の男がすり寄って来て汚いずた袋から取り出した七、八枚の皿をパパパッと早めくりするように見せながら売り付けようとした。こんな闇屋がロクなものを持っている筈はないので邪険に振り払ったが、しつこく追いすがってくる。「うるさいわね、そんなガラクタを見てる暇ないの」と睨み付けたとき、そのどうしようもないガラクタの中に一枚だけオヤと思わせるものがあったのだ。まさかとは思いながら「仕方がないから、一枚だけ買って上げるわよ」と、言い値を三分の一に値切り、日本円にすればたった三千円程で手に入れたのだが、タクシーに乗ってからじっくりと検分して思わずヤッターと歓喜の声を上げて運転手を驚かせてしまった。皿の裏の白さとヌメッとした感触や優れた絵の技巧は、まぎれもなく官窯のものである。「気の毒になあ、あの闇屋、もう少し勉強してたら、当分いい暮らしができたのに」と、いささか心咎める掘り出し物だった。

闇屋から買った乾隆帝の官窯

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