*** 設計バカ ***
('03年1月12日)

レニングラード国立バレエの「眠りの森の美女」を観に、有楽町にある国際フォーラムに行った。
地下3階、地上11階のホールは、やたらわかりにくく、デザイン優先の最悪の設計だと私は思っていたが、実際に利用してみると不便さは一様ではない。

いったいどのくらい使いにくいかといえば、まず、「自分がどこにいるか」わからない構造になっている。階段やエレベーター、エスカレーターの位置がとてもわかりにくい。
会場が真四角でないために、どのドアがどこにつながっているのかがわかりにくいし、斜めになっているシアターでは「1階席」はフロアの3階にあり、さらに3階から中2階に降りる階段もあったりして、まるでからくり屋敷のような造りになっている。
バレエの講演では会場はほぼ真っ暗なので、非常口のサインがあっても、自分の位置がわからないのは不安だ。
公演パンフレットと一緒に会場見取り図と、避難経路、トイレの場所を書いたものを配布することを「法律で決める」べきだと思う。

トイレが少ないのも明らかに設計ミスだ。
特に、今回のような演目(バレエ)の観客は98%が女性なのに、女性用トイレの個室は1ヶ所に10室もないため、上映前や休憩時間には20人以上が並ぶ。
わざわざ外へ出て、地下フロア(私の席は3階だったにも関わらず!)に行けば、そこでもすでに10人近く並んでいる始末である。
20分の休憩時間もあっという間にすぎて、係員がトイレに来て「そろそろ開演時間です」と呼びかけると、ついにおばさんのひとりがくってかかった。
「上演を遅らせなさいよ。あんたんとこの設備が悪くて、こんなに並んでんのよ。いったい客をなんだと思ってるの!」
並んでいたほかの女性たちは、内心「そうだ、そうだ」と思ったに違いない。
後半の休憩では、男性用トイレを急遽「女性用」としたところがあったが、それでも列はできていた。

どうしたらこんなに不便な建物ができるのか、素人には考えも及ばないが、その「言い訳」はここにある。http://www3.big.or.jp/~k_wat/tif/struct.htm
言い訳ではなかった。構造設計の説明か。
いずれにせよ、騒音、耐震、42ヶ月という短期間での建築、という3大課題をクリアした構造なのだと、私は理解した。
この「美しいけれど、限りなく実用に乏しい」設計は、ラファエル・ヴィニオリ http://www.rvapc.com/newindex/newindex.html というたぶん有名でリッチな外国人設計家と、いくつかの日本人の設計事務所による。

ここでふと、思ったことは「外国人はトイレにあまり行かないのではないか」という疑問である。
その昔、サンフランシスコは町なかではなかなかトイレがなくて、喫茶店でも鍵を借りて入らなくてはいけないところが多かった。フランスでも、エジプトでも「トイレはあまりありませんから」と注意を受けた記憶がある。果たして腸の問題だろうか。
つまり、このいまいましい国際フォーラムも、1日に1度くらいしかトイレに行かない外国人が考えたために、1時間おきにトイレにいきたくなる冷え性の女性や、障害を持った人、赤ちゃんや幼児を連れた人が使える設計にはなっていないのではないか、ということだ。

トイレの近い私としては、トイレが少ない施設は猛烈に腹がたつ。
渋谷で言えば「マークシティ」が最悪(いつも混雑している)だし、地方では名古屋のウィルが「女性」のための建物でありながらトイレが狭くて「(個室の)数が少ないことが不満だ。東京駅の大丸や渋谷の東急東横店など、駅に隣接するデパートのトイレのなかにも「狭い」「少ない」ところが多い。そんななかで、合格点を与えられる女性トイレがあるのは、田町にある「女性と仕事の未来館」http://www.miraikan.go.jp/ 。さすが「女性」とつくだけあって、広くて、きれいで、子連れでもゆったり使える豪華な造り。そんなおすすめ施設にもかかわらず、ほとんど使われていないことが許せない。いい施設なのに!

閑話休題。
とにかく「見てくれ」がよくても(耐震構造で、短期間でできても)、使い勝手が悪い建物を造る建築家を「プロ」だなんて認めちゃいけないと思う。
本当のプロは、使えることが基本なんだから。
たとえば、女性誌に掲載されているキレイな外国製キッチン用具は、たいていは実用性に欠ける。
1000円くらいならそんな無駄もがまんできる。
でも、総床面積が20000平方メートルもある建物に、そんな「道楽」は持ち込まないでほしいと思う。
問題はデザイナーではなくて、「こんな設計では利用者が不便だ」とわからない依頼主だ。

「そもそもトイレがもっと必要だって、どうしてオトコはわからないのかしらねえ。ちょっと考えればわかるはずなのに」
同行の友人が言った。
「建築現場に女性がいないからじゃない?」
「そうよねえ。でも、結局はオトコってバカってことよね」
バカなのはオトコだけじゃないんだろうけれど、とりあえず、少ないトイレに怒った私たちのホコ先はトイレを設計した(であろう)オトコに向かったのであった。


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